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野放しの無表示・不当表示の金融商品Nがいうように、「理想の老後」や〈実りあるシルバーライフ〉が買えないにしても、貧乏なら貧乏なりに老後や万一に備えなければならない。
そのために、国民の大多数が保険に入っている。 だが、T海上の貯蓄型損害保険が保険もどきの金融商品で不当表示に当たることはすでに明らかにしたが、一ける余裕に乏しい〉蓄も何もしない人と、せっせと貯蓄して稼いできた人と老後の生活がまったく同じになれば、国民はみんな怠慢になって働かない〉これを受けて、W生保協会会長は、『イソップ物語』のアリとキリギリスの例をあげ、〈老後の生活に備えたアリと、遊んできたキリギリスを一様に助けてはいかん〉といっている。
彼は〈アリを助けることが生命保険料控除の必要性の原点となる〉ともいっている。 老後の備えができない多くの国民は若いときに遊びすぎたのだろうか。

アリのように働きながら、キリギリスのようにみじめなのが大多数の国民である。 さきの「変貌する生命保険」のなかで、業界の担当実務責任者であるS生命市場開発部商品開発課の安川調査役も、〈老後目的貯蓄〉に適しているという個人年金について書いている。
たとえば、新N年金は、最低限支払われる契約年金部分がどの程度の予定利率で計算され、現在の運用実績を基準に計算している増額年金部分も含めると、全体の利回りはいくらで計算しているのだろうか。 これは、この商品を買うかどうかを判断する場合の重要で肝心な中身である。
ところが、店長は「利回りということでは申し上げられないことになっています」といった。 それならと、T海上の商品の場合のように、利回りを計算しはじめたが、素人には容易に計算できない仕組みに設計されていた。
この点では、T海上などの貯蓄型損害保険よりも、いっそう不透明だった。 爆発的な売れ行きをみた一時払養老保険についても調べようとして、その宣伝パンフレットを見て驚いた。
〈万一の場合、五○○万円の保障〉といった大きな活字がおどっているが、まるでポスタIのように活字ばかりが大きく、肝心な商品の内容については、必要なことがほとんど説明されていなかった。 パンフレットでわかることといえば、男性が四○歳で一時払保険料三八五・八万円を出せば、五年後には満期保険金五○○万円に積立配当金がプラスされる、ということくらいだった。
予定利率もなにもなく、せいぜい〈配当金は、毎年の当社決算に基づき計算されますので変動します〉とあるだけである。 いったい支払う保険料の何割が万一のさいの補償となる本物の保険料で、何割が貯蓄部分なのか。
Nでは、やはり「公表できない」といった。 一時払養老保険については、T海上の貯蓄型保険の場合と同じ方法を逆算してみた。
補償がともなうほんとうの保険部分は、契約者が支払った保険料の一○%にすぎない。 あとの九○%は、Nの資金運用にまかせる貯蓄あるいは財テク資金である。
また一○%の本物の保険部分も、約半分は事業費などの諸経費である。 あと半分の純保険料だけが、万一のさいに支払保険金として契約者にもどる源資であるが、一時払保険料全体の約五%にすぎなかった。
商品のこうした肝心な内容を、なぜ公表しないのだろうか。 第三章で損害保険についてみたように、「保険募集の取締に関する法律」は〈保険契約者の利益を保護〉することをうたい、保険の〈締結又は募集に関する禁止行為〉(第一六条)として、〈重要な事項を告げない〉行為もあげている。
これらの〈禁止行為〉は、〈一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する〉(第二二条)となっている。 いうまでもなく、これは生命保険についても適用される。

その商品のどこまでが本物の保険で、貯蓄部分や全体の利回りがいくらかということは、その商品の本質にかかわる〈重要な事項〉である。 それさえ明らかにしていないのは、無表示商品のようなものである。
いや、〈重要な事項を告げない〉行為であり、法律が定めている〈禁止行為〉に当たる。 法律を持ちだすまでもなく、消費者の常識からいっても、商品情報の公開は当然だろう。
たとえば、酒類のウイスキーや焼酎などの商品は、肉眼ではアルコールの度数や原材料がわからないが、ラベルなどにちゃんと表示されている。 しょうゆやソース類も同様で、成分分析表などがついているものもある。
また、外からは見えない缶詰にしても、原材料、形状、数量などが表示されている。 ところが、Nなどの生命保険会社の金融商品は、なぜか最低限必要な内容表示さえ避けている。
これは、酒類にたとえれば、アルコールの度数もわからずに買わされて飲まされるのと同じことである。 アルコール分が三五%の焼酎を買ったつもりが、中身は水割りでアルコール分は五%しかなかったとしたら、消費者は怒り、社会問題にもなるだろう。
これは、たとえばNー時払養老保険についてもいえる同質の問題である。 契約者が、商品に保険の名がついている以上、少なくとも三五%は本物の保険部分だろうと契約を締結しても、純保険料はただの五%でしかない。

また、逆に、一○○%が財テク商品だと思って買った消費者にすれば、余計な保険まで買わされたということになる。 このように、Nにかぎらず保険会社の金融商品は、不当表示どころか無表示が野放しのままになっている。
どこまでが保険で、どこからが貯蓄や財テクの資金になるかも不明のまま、どんぶり勘定でマネーを集めている。 さらに重要なのは、どんぶり勘定で集めたマネーを、どんぶり勘定で株式や不動産などに投資し、運用していることである。
危険などんぶり勘定のツケは契約者に運用資金の配分を一手に引き受けている、さきの財務企画室の出口課長は、純保険料や貯蓄部分なども、「いっさい分けずに運用します」という。 また、「合同運用ですから、利回りも商品別にはわけていません」といい、つぎのようにいった。
「売るときには、一時払養老保険とかばらばらの商品ですが、いったんNの口座に入った瞬間に無色になります。 単なるキャッシュになって、それをわれわれが運用しているわけです」「合同運用」といえば聞こえはいいが、どんぶり勘定というほかない。
保険とはいいがたい商品まで保険という不当表示で売り、どこまでが保障機能をもつ保険部分かも不明の無表示商品を売って集めたマネーは、なんら色分けも区分けもしないで、株や不動産などに投資し、運用しているのだ。 Nの利回り計算も、その分母は総資産で、まったくのどんぶり勘定である。
ただ、そのときどきの運用実績に受取額が連動する、最も投機的性格の強い変額保険だけは、分離勘定になっている。 しかし、さきの〈厳秘〉のN支社長会議資料「昭和六一年度決算概況」には、グラフ「保険料の推移(平準純保険料式による分解)」が掲載されている。
このグラフには、全収入保険料のなかで〈貯蓄保険料〉〈危険保険料〉〈付加保険料〉の三つが占める割合がでている。 あいまいなところも多いが、全体としてどこまで本物の保険料として集め、貯蓄や財テクの資金として集めているのか、ある程度の見当がつけられる。


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